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美肌職人 源さん 美肌職人 源さん

ものがたり

山里の川のほとりに、和紙職人の源さんは暮らしています。もうずっと長いあいだ、夜明けから日暮れまで紙を()いてきました。妻の千代さんが、原料の(こうぞ)づくりを手伝いながら源さんと一緒です。

ある日、東京に出た一人娘の透子(とうこ)がひさしぶりに山里に帰ってきました。透子(とうこ)は、化粧品会社で商品開発しているシートマスクに、父の和紙づくりがヒントにならないかと思っていました。

はじめは話も聞かない源さんでしたが、やがて透子(とうこ)の一途な思いにほだされていきます。それは透子(とうこ)が、陽の光も川の色も風の匂いも知り尽くす父・源さんのすごさを知るのと、ちょうど同じころでした。

ものがたり2「びぼう録」のひみつ−

「ねぇ、和紙のこと、教えてくれないの?」
和紙について教えてほしいと申し出る透子に源さんはひと言も答えません。それどころか、ひさしぶりに帰った透子に「おかえり」さえ言わないのです。

無言で畑や工房へ向かう源さん、そのあとを追う透子。そんな二人を千代さんは、微笑ましくみています。小さなノートを手に透子は必死でついていきます。

そのノートの表紙には「びぼう録」と書いてあります。これは透子の研究ノートで、なんでも記録していく、いわば、“とらの巻”ともいえるノートです。

目下のところ、透子が一所懸命に取り組んでいるのは、自然派素材のフェイスマスクの商品開発です。寝る間も惜しんで、この開発にいそしんでいるのです。

結局、源さんはひと言も口をきくことなく、その日の夕暮れが近づいていました。
それでも透子は、その日わかったことを「びぼう録」に、記録したのでした。

仕事を終えた源さんが縁側に腰を下ろすと、そこに置かれた「びぼう録」に気づきます。そっと、めくってみると、力強い透子の字が目に飛び込んできました。